細草論壇

「疑に三種あり、一には自らを疑ひ、二には師を疑ひ、三には法を疑ふ」(『摩訶止観』)

『臨終用心抄(2/3)』(日寛上人御指南)

(底本:山喜房仏書林版『富士宗学要宗』第三巻 p.263)

 

一、臨終のこと・常に頼み置くべきなり。


『愚案』2-8、
「常に臨終を心に懸くること、肝要なり、在家は妻子、または帰依の僧によく言い入れて『臨終と見ればよく勧めてたまはれ』と。出家は弟子等、また善知識と覚しき人に常に頼み約束して置くべきなり」と。

 

多くはその期におよんで「その人、気弱らん」と云って死期を用捨すること、謂はれあらざることなり。もし弱りて一日・二日・一時・二時早く死にたらば「大事」と思ふて勧むる者は大善知識なるべし、云云。

 たまたま経を読むも、「祈祷に」などといひ、病人に唱題を勧むるを“祈祷になるべし”と云ふは愚の至りなり。

 

一、臨終を勧むる肝心のこと


『致悔集・下』8にいはく
「臨終は勧むる人が肝要なり。たとへば牧の馬を取るには必ず乗り得て取るなり、乗るには必ずうつむかねば落馬せん。ゆへに、(馬に乗りける前には)“是が非でもうつむかん”と思ふ。しかるに、廃忘してうつむくことを忘るるに、そばより勧めればうつむきて取りすます。

かくのごとく病苦死期に責められて臨終の事を失念するをば、勧むるが肝心なり。その勧める様は『ただ題目を唱ふるなり』」と。

 

息の絶へる前の事

 

一、臨終の作法はその所を清浄にして本尊を掛け、香華・灯明をたてまつるべきこと。
一、遅からず・速からず、だだ久しくただ長く、鈴の声を絶へしむること勿れ、気(いき)尽くるを以て期とすること。
一、世間の雑談、一切語り申すべからず。
一、病人の執心に留まるべきこと、一切語るべからざること。
一、看病人の腹立てそうらひしこと・貪愛すること、語るべからざること。
一、病人問ふことあらば、心に障らざるように物語るべし。
一、病人の近きところに心留まるべき資財等、置くべからず。
一、ただ病人に対し「何事も夢なりと忘れたまへ、南無妙法蓮華経」と勧め申すべきこと肝心なり。
一、病人の心に違ひたる人、努努(ゆめゆめ)近づくべからざること。総じて問ひ来たる人の一々を病人に知らすべからざること。
一、病人の近きところには三、四人には過ぐべからず、人多ければ騒がしく心乱るることあり。
一、魚鳥・五辛を服し、酒に酔ひたる人、いかほど親しき人なりとも門内に入るべからず、天魔便りを得て心乱れ悪道へ引き入るゆへなり。
一、家の中で魚を焼き、病人に嗅気をおよぼすべからざること。
一、臨終のときには喉乾くゆへ、清紙に水をひたしてときどき少々・宛潤すべし、「誰か水を」などと名づけてあらあらしく多くしぼり入るべからざること。

 

息の絶へる時・絶へた後の事


一、唯今と見るとき、本尊を病人の目の前に向かへ、耳のそばへより

「臨終唯今なり、祖師・御迎ひに来たり給ふべし、南無妙法蓮華経と唱へ給へ」とて病人の息に合わせて速からず遅からず唱題すべし。

すでに絶へ切っても一時(イットキ=注記:現代の2時間)ばかりは耳へ唱へ入るべし、死しても底心あり・あるひは魂去りやらず。死骸に唱題の声を聞かすれば悪趣に生まるることなし。
一、死後、五時(注記:現代の10時間)も六時(注記:現代の12時間)も、(死骸を)動かすべからず、これ古人の深き誡めなり。
一、看病人等あらく当たるべからず、あるひは(物を)かがめ落とすこと、返す返すあるべからず。
一、断末魔といふ風が身中に出来するとき、骨と肉と離るるなり。病苦・死苦のときなり。このとき、指にても当てることなかれ。

指一本にても大盤石をなげかくるごとくに覚ゆるなり。人目にはさほどには見へねども肉親のいたみ、いふばかりなし、一生の胒みただいま限りなり、善知識も看病人も悲しむ心に住するべし、疎略の心・存すべからず、古人の誡めなり。

総じて本尊にあらずば他の物を見すべからず、妙法にあらずば他の音を聞かすべからず、云云。

 

一、臨終に一念の瞋恚によって悪趣に入ること。


『一覧』5-15にいはく
「阿耆陀王といひし人、国王にて善知識にてをはしけるが、臨終のとき看病人の扇を顔に落とせしに、瞋恚を生じ、死して大虵と生まれ、迦旃延にあいてこの由(よし)を語る」と云云。
『沙石』4-26に引く
「私にいはく、この意(こころ)によって、死期に顔に物をかくるに荒々しく掛くるべからず、あるひは掛けずともよし」云云。

 

一、御書18-22にいはく


「また不慮に臨終の近き候はんには、魚鳥なんどを服せさせたまひてもそうらへ、よみぬべくば経をも読み、及び南無妙法蓮華経とも唱へさせたまひそうらふべし」と云云。
すでに不慮のとき、これを許すことを以て知んぬ、兼ねて臨終と見ば、これを服すべからず、なほこれ臭気なり。いはんや直ちに服せんや。